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神戸地方裁判所 昭和58年(ワ)659号 判決

神戸市西区押部谷町木津二六番地の六

原告

岸本勝

右訴訟代理人弁護士

井関勇司

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

鈴木省吾

右指定代理人

竹中邦夫

杉山幸雄

阿部忠志

藤本義輝

徳島汎

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金四〇二万二一〇〇円及びこれに対する昭和五八年四月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は食料品店を営んでいる者であるが、昭和五二年ないし同五四年分の所得税確定申告に際し、明石税務署長に対し、所得金額を次のとおり記載した所得税確定申告書を提出した。

昭和五二年 一五万二二〇二円

昭和五三年 一二五万八六二二円

昭和五四年 一二二万三四八一円

2  訴外税理士池田忠男(以下「池田税理士」という。)は、原告の代理人として、昭和五五年一〇月一一日明石税務署長に対し原告の昭和五二年ないし同五四年の所得金額を次のとおり修正した所得税修正申告を提出した。

昭和五二年 九五六万五六二二円

昭和五三年 九五七万五七〇五円

昭和五四年 七二九万一六六九円

3  原告は、右修正申告額にしたがつて、昭和五六年四月三〇日から同年八月三〇日までの間に次のとおり所得税等を納付した。

昭和五二年 本税 一五九万七九〇〇円

加算税 八万一〇〇〇円

延滞税 二四万五一〇〇円

昭和五三年 本税 一六二万五三〇〇円

加算税 八万一二〇〇円

延滞税 二八万三一〇〇円

昭和五四年 本税 九四万〇四〇〇円

加算税 四万七〇〇〇円

延滞税 一五万〇八〇〇円

以上合計 五〇五万一八〇〇円

4  原告の昭和五二年ないし同五四年分の真実の所得金額は次のとおりである。

昭和五二年 三七五万二二〇二円

昭和五三年 四八五万八六二二円

昭和五四年 四八二万三四八一円

5  無償代理による無効(主位的請求原因)

原告が、池田税理士に修正申告を委任したのは課税されないよう処理するためであつた。ところが、池田税理士は原告の収入を十分に調査しないまま明石税務署の提示する数字を信用して同税務署が数字を記入した前期内容の修正申告書を明石税務署長に提出し、原告に真実の所得金額以上に課税されるようにしたものであるから、池田税理士と右修正申告につき、少なくとも真実の所得金額を越える申告部分につき原告を代理する権限を有していなかつたものである。このことは、原告が、修正申告額・申告納税額等の記載のない白紙の修正申告書に署名押印し、右申告書提出後にはじめて納税額等を知つたことからしても明らかである。

なお、原告は、前期のとおり所得税等を納付しているが、右は滞納処分の可能性・遅滞税の増加等をおそれて取り敢えず納付したものであり、池田税理士の無権代理行為を追認したものではない。

したがつて、池田税理士が税金を課されるような修正申告書を作成し提出したことは無権代理行為であり、原告にはその効果は及ばないところである。

6  錯誤による無効(予備的請求原因)

池田税理士は、原告の昭和五二年ないし同五四年分の所得税の修正申告をするに際し、明石税務署職員から、原告と取引のある兵庫相互銀行及び日新信用金庫の定期預金が昭和五二年から同五四年の三年間に合計で約一三〇〇万円ないし一六〇〇万円位増加していると指摘され、右金額に生活費等を加えたものが原告の所得金額だとして、同金額による修正申告の「しようよう」を受けた。ところで、原告の昭和五二年から同五四年までの三年間の増加した定期預金は、別紙「定期預金預入れ状況」記載のとおり七九六万二八〇四円であつたにもかかわらず、池田税理士は明石税務署職員の提示した金額を原告に確認することもなく、また銀行調査をすることもなく、同職員の提示した金額が正しいものと誤信し、右金額を原告の所得金額として修正申告した。

また、税務知識のない原告も、専門家の池田税理士を信用し一切を委任し同人の指示によつて前記のような白紙内容の修正申告書に署名・押印したもので、原告自身も池田税理士と同様自己の所得金額が明石税務署職員の提示した金額であると誤信していたものである。

このように、右修正申告には修正申告額という最も重要な部分に錯誤があり、しかも、同修正申告は納税義務者たる原告が自主的にしたのではなく、明石税務署職員の誤つた指導・指示によるものであるから、右錯誤は客観的に明白かつ重大であるとともに、被告側の重大な過失に基因するものといわざるをえない。

他方、修正申告につき更正の請求ができるかどうかは明らかでないが、仮にできるとしても法定申告期限から一年以内とされている。したがつて、本件では昭和五五年一〇月一一日に修正申告をしているところから昭和五四年分の所得については昭和五六年三月一五日までは更正の請求ができる余地はあるが、昭和五二年分及び同五四年分の修正申告については更正の請求は全くできない。そうすると、右は(少なくとも昭和五二年分及び同五三年分については)所得税法の定めた方法以外に是正を許さなければ納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情があるといえる。

したがつて、本件修正申告書の記載内容の過誤は右錯誤を理由に是正されるべきである。

7  原告の昭和五二年ないし同五四年分の真実の所得金額に対する所得税額等は次のとおりとなる。

昭和五二年 本税 一八万〇八〇〇円

加算税 九一〇〇円

延滞税 二万七七〇〇円

昭和五三年 本税 三三万六八〇〇円

加算税 一万六八〇〇円

延滞税 五万八六〇〇円

昭和五四年 本税 三三万〇五〇〇円

加算税 一万六五〇〇円

延滞税 五万二九〇〇円

以上合計 一〇二万九七〇〇円

8  そうすると、五〇五万一八〇〇円から一〇二万九七〇〇円を差し引いた四〇二万二一〇〇円を被告は不当に利得し、原告は同額の損失を受けたことになる。

9  よつて、原告は、被告に対し、不当利得金四〇二万二一〇〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和五八年四月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による法定利息金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の各事実は認め、同4ないし9の各主張は争う。

三  被告の主張

1  無権代理により無効であるとの主張について

原告の昭和五二年ないし同五四年分の所得税調査に関してその税務代理行為を池田税理士に委任しており、また、池田税理士が明石税務署に提出した本件修正申告書には、原告が自書したと認められる住所及び氏名の記載があり、原告自身の印鑑が押印されている。そしてこのことは、原告がその内容を知悉して了承したことを示すもので、原告は、池田税理士に右各年分の所得税調査と申告等税務一切の代理行為を委任していたものというべきである。

さらに、原告は本件修正申告にかかる所得税について昭和五六年八月三〇日には全て納付済である。したがつて、原告の無権代理の主張はいずれの点からみても理由のないものである。

2  錯誤により無効であるとの主張について

(一) 所得税法は、納税義務者の納税すべき税額がその申告により確定するとの申告納税制度を採用して、所得税の課税標準等の決定については最もその間の事情に通じている納税義務者自身の申告に基づくものとし、その過誤の是正は法律が特に認めた方法に限ることとして、租税債務を可及的速やかに確定せしむべき国家財政上の要請に応じようとしているのであるから、納税義務者が右法的の是正方法によることなく、申告内容に過誤が存することを理由として、申告の無効を主張しうるためには、その過誤が客観的に明白かつ重大であつて、法律の定める方法以外にその是正を許さないならば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情が存しなくてはならないと解すべきである。

右は、確定申告のみならず修正申告にも妥当する。なるほど、修正申告にも更正の請求(国税通則法二三条)が認められているが、右更正の請求は、法定申告期限から一年以内に限られており、右期限を経過した後にされた修正申告については更正の請求はできないこととなる。しかし、国税通則法が右のように定めた趣旨は、修正申告は既に先行する確定申告について十分に再検討する時間的余裕と機会があること、修正申告書はその記載内容について納税者が十分検討して作成するものと予想されることから、修正申告は、原則として争えないものとして更正の請求を認めなくても、実質的にみて不当に不利益を課することにならないことにあるからである。そうすると、修正申告書の記載内容の過誤の是正も確定申告書のそれの場合と別異に解すべき理由はない。

(二) 原告の昭和五二年ないし同五四年分の修正申告書は、原告の自主的な判断に基づいて提出されたもので、原告には錯誤はない。

所得税法は、申告納税制を採用しているが、その適正な納税義務確保のために、税務署等の職員は質問検査権(所得税法二三四条)に基づいて税務調査を行うことができ、確定申告の内容が税務調査の結果と異なる場合には修正申告を「しようよう」できることは当然のことである。しかし、右「しようよう」には何ら法的拘束はなく、修正申告をするかどうかは納税者の自由な意思に基づくものである。

本件において、原告が、池田税理士を通して昭和五二年ないし同五四年分の修正申告書を明石税務署長に提出したことは、原告が明石税務署職員の調査によつて申告漏れの所得が発覚したことを認めたことにほかならない。さらに、明石税務署職員が、原告に対し右修正申告をしようようした理由は、銀行調査で把握した原告及び同人の家族に帰属する銀行預金残高の増加額からして、原告の確定申告額に問題があつたことによるもので、原告は右銀行預金の増加した原因及びその資金源については最も熟知しているのが当然であることから、原告の了解のもとに右預金の増加額を基礎に計算した右修正申告所を明石税務署長に提出したものというべきである。

したがつて、右修正申告は、原告の自主的判断に基づくもので、錯誤はない。

(三) 次に、池田税理士に錯誤はない。

池田税理士は、明石税務署員の所得税調査の経緯及び担当税務署職員との折衝結果を原告に逐一説明し、原告の確認と了解のものに右修正申告書を作成提出したもので、税務職員の提示した数字を一方的に信用したものではない。

3  原告主張の「真実の所得」は不正確である。

原告は、定期・通知預金元帳、訴外川本正明税理士(以下「川本税理士」という。)作成のメモ等を根拠に本件修正申告書中の原告の所得額が原告の「真実の所得」の額と異なる旨立証しようとしているが、川本税理士は原告の付けていた帳簿等の提示をもとに各年分の確定申告書を作成していたものであつて、原告の生活状況に深く立ち入つて調査したものではなく、また、同税理士が作成した銀行等預金額の集計メモも原告の資産の一部を示すにすぎず、同税理士は銀行等の預金以外の資産・負債については十分把握していないので原告の「真実の所得」を正確に把握したとは到底いえない。そうすると、原告の昭和五二年ないし同五四年分の修正申告書記載の所得額と原告主張の「真実の所得」額との間にくいちがいがあることの立証はないといわざるをえない。そしてその間に差異があつたとしても、それは被告にとつて「客観的に明白な事実」とはとうていいえないのであるから、そのことをもつて本件修正申告の無効を主張しえないことは明らかである。。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  無権代理により無効との主張について

原告は主位的請求の原因として本件修正申告が無権代理により無効である旨主張するので以下において検討することとする。

1  成立に争いのない甲第一ないし三号証、その原告名下の印影が原告の印章によるものであることは当事者間に争いがないので、右印影は原告の意思に基づいて顕出されたものと推定されるから、その原告作成名義部分の成立が推定され、その余の部分については証人池田忠男の証言により成立が認められる乙第一号証、原告の署名押印部分及び明石税務署の受付印の部分についてはその成立につき当事者間に争いがなく、その余の作成部分については同証人の証言により真正に成立したものと認められる乙第二ないし第四号証、証人池田忠男、同平井暁及び同川本正明の各証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができ、同認定に反する原告本人尋問の結果は措信できず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  原告は、昭和五二年ないし同五四年分の確定申告については川本税理士にその税務代理を委任し、請求原因1記載のとおり(この点は当事者間に争いがない。)所得税の確定申告をした。

(二)  ところが、昭和五五年に、原告に対し原告の昭和五二年ないし同五四年分の所得につき明石税務署職員による税務調査が実施された。

(三)  そこで、原告は、自己に所得税が賦課さないようにするため、自己の取引先である訴外株式会社今出商店の代表取締役今出進を通じて、池田税理士を紹介してもらい、昭和四八年頃から顧問税理士であつた川本税理士に対しては右税務調査に関与しないよう申入れをした。

(四)  池田税理士は、原告には既に川本税理士がいることから一旦はことわつたが、原告の強い申出に基づき税務調査その他のことに関し税務代理を引き受けることを承諾した。

(五)  そこで、池田税理士は、昭和五五年九月一〇日付けで明石税務署長に対し税理士法三〇条に基づき、原告の昭和五二年ないし同五四年分の所得税調査等に関する税務代理行為の権限を有する旨記載した書面(乙第一号証)を提出した。

(六)  原告及び池田税理士は、原告の右税務調査に関し、池田税理士の知人の経営する料理屋の事務所において少なくとも三回は打ち合わせをし、他方池田税理士は明石税務署員と何度か交渉をもつた。

(七)  その後、池田税理士は、請求原因2記載のとおり(この点は当事者間に争いがない。)の金額につき原告に確認を求め原告もやむなく認めたことから、同税理士は原告を代理して昭和五二ないし同五四年分の修正申告書を提出した。そして、同修正申告書の住所・氏名・生年月日の記載は原告の自書であり、印影も原告の押印によるものである。

(八)  さらに、原告は本件修正申告にかかる所得税について昭和五六年八月三〇日には納付ずみである。

2  以上の事実によれば、原告は、池田税理士に対し昭和五二年ないし同五四年分の修正申告の委任をし、同税理士は右委任に基づき原告の代理人として請求原因2記載の修正申告をしたものと認めるのが相当である。

もつとも、原告は、課税されないよう処理するために池田税理士に委任したもので、本件修正申告のうち、少なくとも真実の所得金額を越える部分につき池田税理士は原告を代理する権限を有しない旨主張する。

なるほど、原告本人尋問の結果によると、原告は課税額がより少なくなることを期待して川本税理士から池田税理士に替えたことが認められるが、原告が池田税理士に対し、課税額が適正な額よりも少なくなるよう、即ち脱税をするよう依頼した証拠は一切なく、そもそも、池田税理士は原告の税務代理の承諾には消極的であつたのであつて、原告のこのような脱税行為に原告のために敢えて行う理由は全くなく(ちなみに池田税理士の証言によれば、同人は昭和一八年以降昭和五五年まで税務署職員として勤務していた者であり、さらに税理士としての任務と責任からも脱税行為に加担するとはとうてい考えられない。)むしろ、池田税理士は原告に確認しその了解の下に本件修正申告書を明石税務署に提出し、その後原告は本件修正申告にかかる所得税を納付済であるから、原告の右主張は理由がないものといわざるをえない。

さらに、真実の所得金額を越える部分については池田税理士は無権代理であるとの点であるが、前示認定のところからすると、池田税理士は前記税務申告に関する税務代理行為をする包括的権限を有するものと認められ、他方原告が池田税理士に修正申告の税務代理を委任するに当たり、真実の所得金額を告知して右金額の範囲に限定して右代理権を授与したものであることを認めるに足る証拠はないから、池田税理士が無権代理人であつたとすることはできない。

三  錯誤により無効との主張について

原告は予備的請求の原因として本件修正申告は錯誤により無効である旨主張するので、以下検討するに、修正申告書の記載内容について錯誤がある場合に、その錯誤の主張は、その錯誤が客観的に明白かつ重大であつて、所得税法の定めた過誤是正以外の方法による是正を許さないとすれば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ許されないものと解すべきである。(最高裁第一小法廷判決昭和三九年一〇月二二日言渡民集一八巻八号一七六二頁参照)。

1  まず、原告は、昭和五二年ないし同五四年分の真実の所得は請求原因記載のとおりであり、原告の本件修正申告額の記載内容には錯誤に基づく誤記がある旨主張するので、この点につき検討する。

成立に争いのない甲第七号証の一、二、第八号証の一ないし一六、証人川本正明の証言により真正に成立したものと認められる甲第九、第一〇号証、証人池田忠男、同平井暁及び同川本正明の各証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができ、同認定に反する原告本人尋問の結果は措信できず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  原告の昭和五二年ないし同五四年分の所得につき、担当税務署職員が原告の取引銀行である兵庫相互銀行押都支店及び日新信用金庫緑が丘支店を調査したところ、原告及びその家族の定期性の預金が一三〇〇万円ないし一四〇〇万円あることが確認された。

(二)  他方、川本税理士が、昭和五七年に原告の昭和五二年ないし同五四年分の所得を算出してみた結果は、原告主張のとおりの金額であつた。

(三)  川本税理士の右計算の根拠は、同税理士が自ら十分な調査を行つた結果によるものでなく、新たに入手した銀行照会に基づく銀行預金の元帳と原告方に残つている資産状況等について原告に対して行つた質問結果に基づくものであるが、原告の預金以外の資産と負債については正確な資料によるものではない。

(四)  なお、原告はいわゆる青色申告者であり、記帳を記載してはいたがかなりの記帳漏れがあるため、川本税理士は、同記帳の正確性に疑問を持ち、これに基づいて右(二)の原告の所得金額を算出していない。

2  右事実によれば、川本税理士の算出した請求原因4記載の金額は、銀行預金元帳による外は、既に三年ないし五年前の事柄につき原告に質問し、その回答結果からの推測に基づき算出されたもので正確な資料に基づき原告の全ての資産と負債につき正確に算出されたものとはいえない。しかも、成立に争いのない甲第一ないし第三号証及び証人川本正明の証言によれば、川本税理士は原告方には妻のほか母一人、子供五人の家族が生活しているにもかかわらず当初の確定申告には請求原因1記載のとおり(この点は当事者間に争いがない。)極端に低い所得金額を確定して代理申告しているが、原告方の家族、生活状況、資産、原告の営む食料品店の経営内容等を十分把握していたか疑問である。したがつて、昭和五七年において原告の所得金額を再度算出した際も、その調査方法と内容のあいまいさ、資料の不正確さ等をも考慮すれば、真実の所得が正確に算定できたかははなはだ疑問といわなければならない。そのほか、原告の請求原因4記載の金額が本件各年度の原告の真実の所得であることを認定するに足りる証拠はない。

3  以上の次第で、そもそも原告のいう「真実の所得」は定かではなく、したがつて原告の昭和五二年ないし同五四年分の修正申告記載の金額との間にくいちがいがあるとの証明がないことに帰するから、この点に関する原告の主張はその余の点について判断するまでもなく失当である。

四  結論

よつて、その余の点につき判断するまでもなく原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田毅稔 裁判官 小林一好 裁判官 横山光雄)

定期預金預入れ状況

第一、日新信用金庫

一、昭和52~54年の所得に属する分

1、岸本文枝名義

〈1〉 55.2.16 ¥276,590(甲8の10)

上記のうち、¥251,000が53.2.16預入分である。

2、岸本妙子名義

〈1〉 53.7.7 ¥1,102,238(甲8の11)

(54.7.7 ¥1,152,939となる)(甲8の12)

上記のうち、¥1,100,000が53.4.6~53.5.12預入分である。

3、岸本みどり名義

〈1〉 52.4.27 ¥2,822,712(甲8の11)

(54.5.17 ¥3,000,000となる)(甲8の14)

上記のうち、¥600,000が52.4.4預入分である。

4、以上元金合計 ¥1,951,000

二、昭和52~54年の所得に属しない分

1、岸本勝名義

〈1〉 55.1.28 ¥1,718,334(甲8の1)

これは50.10.17預入分である。

(元金 ¥1,456,266)

〈2〉 54.5.17 ¥1,281,666(甲8の4)

これは50.4.8預入分である。

(元金 ¥1,000,000)

2、岸本豊子名義

〈1〉 55.1.22 ¥2,839,865(甲8の8)

これは51.1.22預入分である。

(元金 ¥2,257,280)

3、岸本正彦名義

〈1〉 54.4.20 ¥1,201,114(甲8の9)

これは51.4.20預入分である。

(元金 ¥1,005,797)

〈2〉 54.8.13 ¥1,185,277(甲8の9)

これは51.8.13預入分である。

(元金 ¥1,001,901)

4、岸本文枝名義

〈1〉 54.11.6 ¥1,651,889(甲8の10)

これは51.11.6預入分である。

(元金 ¥1,402,952)

5、岸本みどり名義

〈1〉 52.4.27 ¥2,822,712(甲8の11)

(54.5.17 ¥3,000,000となる)(甲8の14)

上記のうち、元金¥2,200,000が51.11.19~51.12.31預入分である。

(以上元利合計 ¥12,078,145)

(以上元金合計 ¥10,324,196)

三、以上合計

1、元利合計 ¥14,079,685

2、元金合計 ¥12,275,196

3、昭和52~54年分(元金)

¥1,951,000

第二、兵庫相互銀行分(甲7の1、2)

一、昭和52~54年の所得に属する分

1、キシモトマサル名義分

〈1〉 78.3.11 ¥1,011,804

〈2〉 78.6.13 ¥1,500,000

(80.3.18 解約)

2、キシモトマサヒコ名義分

〈1〉 79.9.19 ¥2,000,000

3、キシモトミドリ名義分

〈1〉 79.11.24 ¥1,500,000

二、昭和52~54年の所得に属しない分

1、キシモトミドリ名義分

〈1〉 80.4.19 ¥1,500,000

2、キシモトフミエ名義分

〈1〉 80.3.18 ¥3,000,000

(これは、一、1のキシモトマサル名義解約分を預入れたもの)

三、以上合計

1、元金合計 ¥8,000,000

2、昭和52~54年分(元金)

¥6,011,804

第三、昭和55年当時預金残高

1、元利合計 ¥22,079,085

2、元金合計 ¥18,275,196(未計算除く)

3、昭和52~54年の所得に属する分合計(元金)

¥7,962,804

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